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2012年4月19日 (木)

詩心と素心

 

以下の文章は詩人の谷まさしさんの詩集「夢幻丘陵」昭和52年7月刊行の跋文として書いたものである。谷まさしさんは数年前に亡くなられたが、お元気なころはよく画廊めぐりなどもされたり、書の個展を画廊や百貨店の画廊でもなんどか開かれたりした方である。
 こんなことも書いたという記録のためにこのブログにあげてみた次第。

詩心と素心      山内 宥嚴

 最初に谷まさし氏にお目にかかったのは ふた昔ちかい過去(むかし)である。その頃も私は相変らずの赤貧であったが いささか無頼のふりをして 酒など鯨飲しても少しも酔っぱらわず いっぱしの詩人のつもりであったにちがいない。 当時仲間にしてもらっていた同人雑誌で 各界の名士 奇人の類を訪問してはユニークな記事にしようとの企画をたてて その第一回の候補にあがったのが 誰あらう 谷まさし氏なのである。
 谷まさし氏をひっぱりだしたN氏の紹介では 詩人にして茶室庭園の研究家ということであり 南のさる店ではじめてお会いした。
 その折にどのようなことを話されたのか皆目覚えてはいないが 桜の宮の淀川べりに 犬とふたりで住んでいるよ と言われたのが印象に残っていて その一言で急に親近感を覚えたのを想出す。

 なぜ親近感を覚えたかというと 私の知っている桜の宮の淀川べりというのは 川っ縁に掘立小屋が並んでいる風景で そこに住んでいる人たちは 寄せ屋かなんぞをなりわいとしていて あまり世の人のあこがれるような暮らしではない筈で 谷まさし氏の言う 桜の宮の淀川べりというのが それらの小屋のひとつだと 私は勝手に決めこんで 親近感をもったわけである。
 そこで犬とふたりで住んで 茶室を廻ったり庭園の研究をしたり 詩を書いたりというのは まさしく仙人の生き様であって そう思って谷まさし氏の姿をつらつら眺めると あの掘立小屋から犬に留守を任せてひょいとやって来たにしては 着るものにも一分の隙もなく ベストドレッサーとでも言うべきか 私が想像する小屋からやって来たにしては すこうし立派すぎるような気がしないでもない。
 そうしていくらか無礼かとも思えるようなわれらがN氏の質問に 気に障る風もなくいろいろ受け答えをしながら 健啖ぶりも発揮されていたように思う。
 そのようにして 谷まさし氏との出合いがあり 付き合いが間遠ながら今日まで続いて来た次第であるが 最初の谷まさし氏の仙人の如き印象というのは いまもって変らない。
 変らないどころか その頃に比べて 谷まさし氏の仙術は一段と奥深いものに
なっているということは 疑問の余地がないことろである。変人奇人というものは 私の知る限りでも数人はたちどころにあげることが出来るが 仙人なるもの 目下のところ 谷まさしをおいて 思いあたるところはないと言うのが正直なところである。
 この詩集のなかにも そのことがありありとしているのは言うまでもないが読者が注意しなくてはならないことは 術に長けているとは言え 谷まさし氏詩を書くに術を使ってはいないということである。いわば素心とも言うべきに貫かれていて その境地が作品に逆に独特の詩法を感じさせるような趣を呈している。
 詩心というか素心というか仙術もまた 上仙飛行の術という詩のなかに書かれている霊薬の製法の如く 一見複雑そうな術の根底には 平明な境地というものに達することが求められているようである。
 谷まさし氏にとっては 詩も仙術もひとつの求道に他ならない。折ふし聞かさ
れた谷まさし氏の不思議ともいうべき半生が この詩集を通して彷彿として泛ん
でくるからには そこからせめて素心の一端なりとも学びとりたいものである。
 歌集「雲を帽子に」に続いての詩集で その意欲には脱帽させられるが 詩集というものは全篇書き下しであるべきだという谷まさしの持論どおり この詩集は編まれていて そのことからも この詩集は 詩集刊行の術とでも言うべき仙術の仕業の如くに感じられて 楽しいかぎりである。


Tanimasashishisyu

         詩集「夢幻丘陵」表紙

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